マラガ・ジブラルタル旅行記 – その2、ジブラルタル編

マラガの宿は、翌日6時過ぎにはチェックアウトした。
レセプションには女将ではなく、英語を解しない主人が出てきた。
ぼくは1日分だけの荷物を持って出かけるつもりだった。
実は前日女将に、「この宿が気に入ったのでジブラルタルから帰って来たら再び泊まりたい。」と頼み、部屋を確保してもらっていた。
彼女は、「同じ部屋は無理だけど、やりくりする。」と約束してくれていた。
荷物を預って欲しいと主人に言うが、今ひとつ伝わらない。
カレンダーを指差しながら、「ワタシジブラルタルイク、アシタマタクル、ニモツオイテイク。」みたいな語り口でようやく理解してもらえたようだ。

余計な荷物を置いたぼくは身体が軽くなった気がした。

バスターミナルへ

まだ夜中の空の下をバスターミナルへ向かう。


一昨日到着してから何度も行き来した道。
青田商店はまだ閉まっている。
バス停まではほんの数分の距離ではあるが、なにか昨日までとは違う気がした。

6:30を過ぎたころ、チケット販売の窓口はひらいた。
ぼくが着いたときにはすでに何人かが並んでいた。
みんな7時のバスなのだろうか。


列の先頭から5〜6番目のぼくは、前から3列目の座席を割り当てられた。
右の窓際だ。
プラットホームでバスがやって来るのを待つ。
15番ホームへは6:55にバスが流れ込んで来た。
フロントシールドの下の電光掲示板の文字が流れて「La Linea」に変わった。


乗車口でチケットを見せる。
チケット言うよりはレシートのようなものだ。
ドライバーはその角を手で千切り、使用済みの確認の代わりとした。
チケットで指定された席に座る。
いまから一人バスに乗って行くのだ。
もちろん乗合バスなので同じ目的地の人はいるはずなのだが、東洋人はぼく一人であること、他のほとんどの人たちは生活の中の一部であることを感じていた。
こんなときは周囲の人たちに話しかけても良さそうなものだが、彼らとぼくとのその違いがそれを拒んだ。

ジブラルタルへ

マラガからジブラルタルとの国境の町「La Linea」までは130km以上ある。
真っ暗な道をバスは進む。
バスは主にバイパスを走るが、時折インターチェンジから街へ降りる。
街では乗客を降ろし、また新しい乗客を乗せて行く。
ぼくの頭の中では、MálagaからLa Lineaまではノンストップで走るものだと思い込んでいたのだが、これには拍子抜けだった。
またこのバスは観光用ではなく生活に根付いたものなのだと改めて実感した。

途中乗り降りする人々の中にアラブ系であろう人の姿が時折混じる。
彼らは、やがて目にするであろう海で隔てられた大陸からやってきたのだろうか。
そんなことを考えながら乗客の乗り降りを眺めているうちに夜が明けてきた。

日の出のころは晴れていた空がだんだん鉛色の重苦しい雲に覆われていく。
そのうち雨がガラスを叩きだした。
ああ、雨か。
少し残念な気分になった。
ぼくは現地は晴れていることを願いながらバスに座っていた。

到着予定時刻が近づいてきた。
相変わらずの雨模様の中を走るバスの車窓から外を眺めると、岩山(というか丘)に所々草木が生えている。
その丘を眼を凝らしてみると、牛が放牧されている。
ぼくがこれまで観てきた放牧牛たちとは違い、肩の骨の出た痩せ細った茶褐色の牛が見えた。
彼らの行き先を遮る柵などは見えなかった。

バスはやがて幾度目かの街に入った。
インターチェンジからしばらく走ると右側は大きな入江になった。
対岸を見ながらバスは進む。
あとで分かったが、対岸の港はスペインのアルヘシラスだ。
バスはやがてターミナルに入っていった。
ラ・リネアだ。
マラガのバスターミナルも殺風景だったが、ここはさらに殺風景だった。
観光客を受け入れるような風体ではなく、必要な人だけが利用してくれればいい、そんな潔さが漂っていた。

国境の町、ラ・リネア

外はあいかわらずの小雨が降っていた。
寒い。

バスを降りたぼくは一休みしたかった。
ちょうど御誂え向きなことに、ターミナルの前にカフェがあった。
プレハブ小屋に毛が生えたような建物。
中を覗くと地元の人たちだろう、何組もの客で賑わっていた。

ぼくも中へ入っていった。
手前の方は喫煙できる席。
仕切戸の奥が禁煙席のようだ。
喫煙席を通り抜け、禁煙席のちょうど中程のテーブルが空いていたので、その席に座った。
バックパックを背負ったぼくは、周囲の客たちとは明らかに違う風体だった。

周りの様子をしばらく観察して、オーダーの仕方を伺った。
みんなコーヒーとパニーノを注文しているようだ。
チーズとハムを挟むのが定番のようだ。
ぼくもそれに倣って注文してみよう。

にこやかな若く可愛らしいカウンター嬢の前に出て、前の人と同じように注文してみる。
残念ながら彼女は英語はしゃべらなかった。
いくらかの会話(とジェスチャー)のあと、出てきたのは砂糖とクリームの入った甘いコーヒーとパン(とバター)。
チーズとハムはどこへいったんだろう。

どうやらまた失敗してしまったようだ。
自分自身に失笑しながら、いつもなら絶対に飲まないような甘いコーヒーとパンを口に運んだ。

しばらくの間そのカフェで時間を潰してみたが、雨は一向に止む気配はない。
居心地のいいカフェではあったが、カフェで座っているのが旅の目的ではないので、ジブラルタルへ入国することにした。
カフェを出て、小雨が降り続く中を南へ歩く。
プロムナードを抜け、大通りを横切ろうとしたそのとき、霧の隙間からジブラルタルの岩山がその姿を現した。

目の前に現れた岩山とこちらの間には飛行場が横たわっている。
国境を越え、ジブラルタルの岩山へ行くには滑走路を横切る必要があるのだ。
ぼくはボーダーコントロールの事務所へ向かった。
ここを越えればイギリス領なのだ。

ジブラルタルへ入国する

国境を越えるのはあっけないくらい簡単だった。
ラ・リネアから毎日国境を越えてジブラルタルへ通勤している人たちも多数いるらしい。
パスポートを見せると、PCの画面をチェックしながら「良い一日を」と声を書けられたくらいで、よほどの質問もない。
ぼくはちょっと拍子抜けしながら事務所を通り抜けた。

事務所を抜けると滑走路が広がっていた。
ほとんどの空港では滑走に入ることなどできない。
しかしここジブラルタルでは離着陸の時間以外は徒歩でも自動車でも行き来できるのだ。

ばくはロンドンバス風の二階建てバスにの乗って行くことにした。
歩いて滑走路を横断するのが楽しみもしていたのだが、相変わらず雨は降り続いていたので、少しでも濡れたくなかった。
料金表を見ると、イギリスポンドとユーロで併記されている。
ジブラルタル側・スペイン側どちらの住民にも便利なように計らっているのか。
その割にイギリスポンドに有利な設定になっているのが可笑しい。

時間通りにバスは動き出した。滑走路を進んで行く。
これまで沖留めの飛行機からターミナルまでバスで移動したことは何度もあるが、路線バスで移動するのは初めての体験だ。

どんどん岩山が近づいてくる。
その大きさと断崖の角度に圧倒される。急斜面の岩山、ではなく、直角の断崖にしか見えない。

やがてバスはその岩山を見上げる、街の入り口のバスターミナルに停まった。
何本ものプラットホームが並ぶそのターミナルは、ジブラルタルが多くの人で賑わっていることの証明だろう。
バスを降り、ゲートを抜けるとそこはジブラルタルの街の入り口だった。

ダウンタウンにて

先程までのスペインの町並みとは明らかに雰囲気が違う。
ここはイギリスなのだ。

実際、街は賑わっていた。
小綺麗な石畳の歩道が続く。
その両脇には無数の商店が連なる。
ジブラルタルは半島状の地形だが、その東側がジブラルタルの岩山。
その岩山の西の麓に沿って古い町並みが続いている。
そう、山に張り付くように街が連なっているのだ。
古くからの街並を大切にしているのだろう、大きな車は入れないようになっているらしい。

街のさらに西側と海の間にはバス通りが走り、大きなショッピングセンターなどが軒を連ねている。

ぼくは石畳の道を歩くことにした。
歩き出してすぐに両替所がみつかった。
とりあえず2日間に必要と思われる額だけを両替した。
両替所の横の脇道に観光案内所があった。
ぼくはジブラルタルのガイドマップをもらった。
そのガイドマップによると、街のはずれにはロープウェイがあり、岩山の上まで運んでくれるらしい。
とりあえずロープウェイの乗り場を目指そう。

ロープウェイの乗り場まではさほども遠くはなかった。
残念なのは、今日はガスが濃く視界が全くない上に、岩山の上は風が強く立っているのも大変だということだった。
せっかくここまで来たのだが、明日の天候回復に期待して、今日は遠慮することにした。

時間は十分にあるのでもう少し奥まで歩いてみることにした。
街を抜け、ロープウェイの乗り場を過ぎたその先に、数件の店が寄り添って営業している一画が見つかった。
1軒はスポーツバー、その2軒隣はブリティッシュスタイルのバーだった。
土産物屋やクリーニング店もある。
この雨のせいだろうか、どの店も客足は疎らで、閑散としている。
雨に濡れて一休みしたかったぼくは、ブリティッシュスタイルの方に入ってみた。

ほどほどに年季の入ったウェイトレスに促されて、奥まったテーブル席についた。
しばらくして彼女がメニューを持ってきてくれた。

メニューに一通り目を通すフリをしたが、実はぼくの心の中では何を注文するのか、すでに決まっていた。
本場のフィッシュ&チップスを食べようと。
さほどの客もいないのに、忙しそうに行き来する彼女を捕まえるのには苦労した。
やがて目の前を通ったタイミングで呼び止め、ビールとフィッシュ&チップスを注文した。

しばらくしてビールが運ばれてきた。
ビールを飲みながら天井から吊り下げられたテレビを眺めていた。
フットボールの中継だった。
カウンターではその中継をビールを飲みながら観戦している地元の人らしい二人が、プレイに変化があるたび、大きな声を出したりため息をついたりしていた。

そんな二人とテレビを交互に見ているうちに、件のフィッシュ&チップスがやってきた。

期待に胸を膨らませてナイフを入れてみた。
白い湯気がフワッと上がった。
ほんの少しビネガーをふりかけ、ナイフで大ぶりに切って口に運んだ。

ぼくは少し残念だった。

ぼくが地元で行き付けにしているバーもフィッシュ&チップスが売り物で、時々注文する。
オーナー兼バーテンダーの彼は長くセントアンドリュースのホテルでバーテンダーとして下積みした。
彼の作るフィッシュ&チップスは美味しく、ぼくは「イギリスのフィッシュ&チップスはさらに美味しいに違いない」と勝手な妄想を抱いていた。

もちろんここはスコットランドではないし、イギリス本土でもない。
期待しすぎたぼくがいけなかったのか。

途中ビールのお代わりをもらった。
外は相変わらずの雨が降り続いている。
軽く酔ったぼくは、これ以上の探索は明日へ持ち越して、今日は宿へ向かうことにした。

ぼくは先ほどからきた道を戻り、街の入り口のバス停まできた。
歩いて滑走路を抜け渡りたい気持ちもあったが、雨脚が強くなってきたこともあり、再びバスに乗り込んだ。

出国のボーダーコントロールは、入国よりもさらに簡単だった。
職員がいるカウンターの前を通り抜けるだけ。
パスポートを見ることもなかった。

ラ・リネアにて

国境を越え、再びスペインに戻ってきた。

ほんの数百メートルしか違わないのに、美しく重厚な街並みのジブラルタルと、ゴミが落ちていたり倒壊した建物が散見されるラ・リネア。
このギャップをどう思えばいいのだろうか。

iPhoneで宿までの道順を確認してみた。
ラ・リネアの中心部にあるようだ。
狭く入り組んだ路地を歩いて行った。
すぐにそのホステルは見つかった。

チェックインはスムースだった。
ぼくには2階の廊下の奥の部屋が割り当てられた。

ここも薄暗い廊下の突き当たり。
ここも古めかしい鍵式のドアノブだった。
ちょっとしたコツが必要で、慣れるまで少し時間がかかってしまった。
部屋に入って背中から荷物を降ろした。
バックパックから荷物を取り出し、少し整理などしてみた。
マラガにほとんどの荷物をおいてきたので大したものは持っていない。
パスポートと財布など、本当に必要な身の回り品だけを持って外に出かけることにした。

街はプンプンと生活のにおいが漂っていた。
路上をも占有したカフェは多くの客で賑わっている。
ここだけを見ればマラガとは大きくは違わない。
ただ、ここにはストーブが焚かれ、人々はストーブに群がるように席をとっていた。

そんな店を何軒か通り過ぎ、比較的空いている店に入った。
この店が空いているのは外にテラス席を設けていないせいだろうか。

ぼくはカウンター近くのボックス席に座り、ビールとハモンセラーノを頼んだ。
そのハムはわずか6ユーロだったが、大皿にたっぷりと運んでこられた。
だんだん客が引けてきた、と感じていた。
ぼくがビールをおかわりしようとすると、なにやらジェスチャーで伝えようとしている。
どうやらもう閉店ということらしい。
それなら仕方がないので、ぼくは店を出た。

帰り道は少し遠回りしてみた。
ちょうど宿の裏手にスーパーマーケットがあった。
ぼくは中に入り、白ワインと何種類かのチーズ、オリーブの瓶詰めを買い求めた。
あとは部屋でのんびりしよう。

翌朝朝食を買いに昨日のスーパーマーケットへ向かった。
もう9時過ぎだというのに開く気配がない。
ああ、今日は日曜日だ。
ぼくは朝食は道すがら食べることにして部屋に戻った。

宿に戻ったぼくは、荷物をまとめ、チェックアウトの手続きをした。
昨夜のワインは全部は飲みきれなかったので、宿の机の上においてきた。
空は相変わらず鉛色だが、今日は雨は落ちきていない。

昨日とは違う道順でジブラルタルとの国境へ向かった。
迷路のようなラ・リネアの街を歩く途中、一軒のカフェが営業していた。
カウンターとボックス席で、合わせて15席ほどの小さなカフェ。
ぼくは中へ入っていった。
奥のボックス席が空いていたのでそこに座った。

店主とスタッフが少々困った顔をしているのがわかる。

若いスタッフがメニューを持ってきてくれたが、どうやらコーヒーとチュロスだけのようだ。
周りを見渡しても、みんな同じものを持っている。
郷にいれば郷に従うことにしているので、ぼくも周りと同じものを頼んだ。

しばらくして、丸くとぐろを巻いたチュロスとミルクと砂糖が入ったコーヒーが届けられた。

チュロスは軽く塩味がついているだけ。
甘くない。
そのチュロスを甘いコーヒーに浸して食べるのがラ・リネア流らしい。

ぼくも真似をすることにした。

大振りに見えたチュロスは、中はほぼ空洞のためか、案外あっさりとしていた。
食べ終わったぼくは少々物足りないように感じるくらいだった。

ぼくが食べている最中、初老の女性が入ってきた。
だが、ぼくと目が合って、その後何かをスタッフに一言二言言っている。
ぼくは、ぼくが座っているこの席が彼女の定位置なのではないか、と察した。
やがて食べ終わったぼくは、しばらくゆっくりしたかったのだが、彼女のために席をあけた。
カウンター席に座っていた彼女は、ぼくが会計を済ます間に、そそくさとぼくが座っていたボックス席へ移動していた。

ヨーロッパポイントへ

再び国境までやってきた。
昨日は濃い霧がかかり麓しか見えなかったジブラルタルの岩山が、今日はその全貌をあらわにしている。

国境と並行して走る大通りに自転車を押した銅像があった。
「A LOS TRABAJADORES ESPAÑOLES EN GIBRALTAR」
ジブラルタルのスペイン人労働者といったところか。

今日は国境を越える自動車が昨日よりも多い気がする。

今日は歩いて滑走路を渡ろう。

歩いて滑走路を渡るぼくたちを、入国する自動車が追い越して行く。
ひととおり通過しおわったところで、今度は出国する自動車がやってきた。
自動車は入国と出国を交互にしているようだ。

今日はバスターミナルではなく、傍らにある小道から街へ入ってみよう。
砦の門をくぐり街へ入る。
街の要所には大砲が置いてある。
もちろん実際には使えないのだろうが、ここが重要な軍事拠点であることを思い出させる。

バスでジブラルタルの南端、ヨーロッパポイントへ向かうことにした。

晴れていれば、ヨーロッパポイントからは対岸のモロッコが見えるという。
広場からゲートをくぐり、バス停へ出た。
バス停でヨーロッパポイント行きの発車時間を確認してみると、ほんの数分前に出発したばかりだった。
次のバスは1時間後。
ぼくはカフェでコーヒーを飲みながら出発時間を待つことにした。
街へのゲートをくぐり、広場へ戻った。
広場の突き当たりにコーヒーショップがあった。
今日も昨日と変わらず寒い。
大西洋が近いせいなのか、マラガの陽気とはこうも違うのかと思う。

さて、バス時間が近づいたのでバス停に移動しよう。
バスに乗車しチケット買う。
行き先と片道(Single)か往復(Return)の指定。
ぼくはもちろんReturnを買った。

バスは街の西側の大通りを進む。
街を出てすぐに、昨日フィッシュ&チップスを食べたあの店の前を通った。
車窓からは造船所や港、入江の向こうにはスペインのアルヘシラスが見える。
途中は岩山の裾を登って行くのだが、狭く急なカーブが続く道をかなりのスピードですれ違いをする。
慣れたものだ。

何度もバス停で止まり、その都度乗客を乗せ降ろしながら進むバスに揺られて、やがて40分ほどでヨーロッパポイントに到着した。

鉛色の空と黒い海が物悲しい。
大西洋からの冷たい風が吹いているせいだろうか、そう感じるのも。
ぼくはなるべく先端まで進んだ。
少しでもアフリカ大陸をこの目で見るために。

ぼくの他には自動車でやってきた老夫婦が1組いるだけだった。
岬の土手の上には学生が運営しているというカフェがあったが、何と無く場違いな感じがした。

アフリカ大陸

どれくらいその場にいただろうか。
重く垂れ込めていた雲が、少しづつ流れて行くのがわかった。
だんだんと南の空が明るくなっていく。
その雲の下に、やがてアフリカ大陸が現れたのだった。
雲は相変わらず低く、その山の頂は見えないが、しかしそこにあるのはアフリカ大陸そのものだ。
ぼくはここに来る前は、アフリカ大陸を見ると気分が高揚するに違いないと思っていた。
ところが、今ここにいるぼくは落ち着いて、むしろ冷めた目で海の向こうの大陸を眺めている。
不思議な感じだった。
次はあちら側からジブラルタルを見たいと思った。

休日のジブラルタル

街に戻った。
昨日はあれほど賑わっていた街は、今日は静まり返っていた。
このこと知らずにやってきたわずかばかりの観光客と掃除などのメンテナンスのスタッフがいるだけだ。
午後のバス時間まで時間はたっぷりある。
それなのに、観光案内所すら閉じている。
ぼくは多くの店が閉まっている街を歩き回った。

とある小路の向こうに、レストランが1軒営業しているのをみつけた。
と同時にお腹が空いていることを思い出した。
人間とは自分勝手にできているものだ。

店内にはぼくと同じようにジブラルタルにやってきたものの、日曜日の休みで行くところがなく、たまたま開いていたこの店に避難してきた、そんな趣の人たちが幾グループか席をとっていた。
ちょうど昼過ぎということもあり、ぼくは昼食を食べていくことにした。

周囲を見渡してみる。
ワイングラスを傾けるカップル、ビールを飲むグループなど、みなゆったりとした雰囲気を楽しんでいるようだ。
ぼくもとりあえずビールをもらった。

中年のウェイトレスが食事のメニューを届けてくれた。
そういえば、この旅行中の食事は中途半端なものが多かったと思い出した。
オリーブを食べて満足したり、ハモンセラーノばかり食べてみたり。
幸いぼくはそんな食生活でも体調が悪くなったりすることはない。

メニューにはビーフ、ポーク、魚などが用意されていた。
ぼくはローストポークを注文した。
ビールを飲みながら、周囲を見渡す。
ビクトリア調の店内。
客たちもお洒落な人たちばかり。
アウトドア用のウェアを着ているのはぼくくらいのものだ。
ちょっと場違いだったか(苦笑

食事が出てくるまで少々待たされた。
これまでのサーブのタイミングとは明らかに違う。
「もしかすると注文を忘れているのか?」
と思ってしまうくらいの長さだった。

少し苛立ち始めた頃、ようやくぼくのローストポークが届けられた。
せっかちだった自分を恥、少し責めた。

周囲の客たちが醸し出すその雰囲気は、慌てないその余裕から生まれるものだったのかもしれない。
いまの自分と彼らとの距離を感じた。

マラガへ戻るバスの出発時間までは、まだ随分あった。
ぼくは定休日の街をふらふらとあてどもなく彷徨った。

ビールのケグが大きい。


軽トラは左ハンドルだった。

そんなつまらないことに関心しながら歩き回った。

そろそろバスの時間か。
ぼくはバスターミナルへ向かった。
今朝と同じように徒歩で滑走路を渡った。
無関心なボーダーコントロールを抜けた。
国道を渡った。
左へ進めばラ・リネアのバスターミナルへの近道だが、街へ向かうように歩いた。
以前は賑わっていたんだろう、寂れたショッピングモールを通り抜けた。
日本料理店の跡地もあったらしい。
ただ、中華料理店と併設だったことが、なんだか残念な気分だった。

バスターミナルはどこか寂しげだった。
鉄格子とガラスで遮られたチケットカウンターと、何種類かの飲料とアイスクリーム、スナックだけを扱っている売店。
ぼくはアイスクリームを買った。
肌寒いラ・リネアでどうしてアイスクリームだったんだろう。

やがて時間がきて、バスがホームに入ってきた。
出発までは少し時間があったが、ぼくはバスに乗り込んだ。
運転士がやはりチケットの角を千切った。

定刻に出発したバスは昨日と同じように途中で何人もの乗客を乗せては降ろした。
昨日と違うのは、どの乗客も大きな荷物を持っていたことだ。
正月休みが終わるのだろうか。
そうだ、ぼくの休暇ももうすぐ終わるんだった。
マラガに向かうバスの中で、ぼくはそう思い出した。

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